「「空気」を読んでも従わない」(鴻上尚史)

息苦しさを感じている子どもたちに読んでほしい

「「空気」を読んでも従わない」
(鴻上尚史)岩波ジュニア新書

先日、こんな記事が
新聞に載っていました。
「7月10日、秋田県庁前で
参院選候補者が街頭演説した際、
県職員数十人が勤務時間中に
県庁敷地内で候補者陣営と共に、
勝利を期した掛け声を上げた」。
公務員の政治的中立性を考えると
問題のある行為を
数十人が何の疑問も持たずに
行っていたのです。

記事には県幹部の釈明として
「自分だけ腕を上げなければ
雰囲気を壊すと思った」という話も
載っていました。
まさにその場の「空気」に
支配されているのです。

大人でさえ
「空気」に抗うことが難しいのです。
子どもであればなおさらでしょう。
そうした「息苦しさ」を感じている
子どもたちに読んでほしい一冊が、
岩波ジュニア新書から登場しました。

著者はまず「世間」と「社会」の違いを
明確に説明しています。
そして「世間」は日本特有の
考え方であること、
明治の時代に国が「世間」を
壊そうと試みたものの、
壊れかかりながらも現在まで
しぶとく「世間」は残っていること、
この国の「生きにくさ」の正体は
この「世間」と関わりがあることを、
一つ一つ丁寧に紐解いています。

さらに、「空気」についても
分かりやすく分析しています。
「「世間」という大きなものが、
 くだけて、日常的になり、
 いろんな場面にいろんな形で
 現れるようになったのが
 「空気」なのです。」

この、「世間」そして「空気」は
日本特有のものであり、
外国には存在しないということを、
私自身もはじめて知りました。
今まで「世間」「空気」というものの正体が
掴めていなかったのです。
「世間」「空気」とは何かということを
知るだけでも、息苦しさから抜け出す
手掛かりが得られると思います。

後半部分では、著者は
「世間」というものが
「年上がえらい」
「同じ時間を生きることが大切」
「贈り物が大切」
「仲間外れを作る」
「ミステリアス」という
5つのルールから成り立っていると
解きます。
そしてそれを踏まえた上で、
「世間」との戦い方について
解説しているのです。

「世間」は強力ではあるが絶対ではなく、
戦い方を十分に準備した上で臨めば、
しっかりと対抗できる
ものだということを
著者は繰り返し述べています。
また、ただ一つの「世間」だけではなく、
第二第三の「世間」を持つことによって
息苦しさが緩和されることも
指摘しています。
現在、学校内の集団の中で
息苦しさを感じている子どもたちに、
ぜひ読んでほしいと願う一冊です。

さて、冒頭に掲げた秋田県庁の一件は、
知事をはじめとして職員の大多数が
「それをしてはいけないという
法はないのだから問題ない」と
開き直っています。
全体の奉仕者たる
公務員としての自覚よりも、
職場という「世間」の方が大切だと
言わんばかりです。
そんな大人たちにも
ぜひ読んでほしい一冊です。

(2019.7.18)

笑い鬼さんによる写真ACからの写真

2件のコメント

  1. 「世間論」からの指摘は鋭いものがあります。創始者の阿部勤也(一橋大学の元学長)や佐藤直樹(九州工業大学名誉教授)も面白いです。

    1. おはようございます。
      お久しぶりです。
      コメントありがとうございます。
      読んでみたいと思いながら、
      なかなか手を出せませんでした。
      これを機会に探してみたいと思います。

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